14
2008年の
クリスマス・イブ、
東京は気味が悪いほど
寒くならなくて
ホワイトクリスマスには程遠かった。
もう
関東で
ホワイトクリスマスを迎えることは
死ぬまで二度とないかもしれない。
そう思うと
なんだか悲しくなった。
彼女に言ったら
「うそー」
なんて言っていたけれど
あながち嘘でもない。
関東ではどんどん
雪が降らなくなっている。
2008年のクリスマス・イブ、
私は、彼女と一緒に過ごした。
**
時を遡って10月半ば、
私のもっとも好きなアーティストの
ライブチケットが手に入った。
日にちは
12月23日 と 12月24日。
23日は
ファンの友人と。
24日は
‥‥‥
困った、そういえば平日だった。
相当早く退社しないと
間に合わない時刻。
余っているチケットは1枚。
その頃は彼と別れたばかりで
イブだからといって
誘う相手もいなくて
少し考えた。
そのアーティストは人気が高くて
「コンサートにつれてって」と
たくさんの友人から
リクエストを受けるほどだった。
友人たちの顔が頭に浮かんだ。
同時に彼女の顔が、浮かんだ。
彼女はミーハーで
ノリやすいけれど
移り気で。
前に彼女も
「コンサート行きたい」
なんて言っていたっけ。
その熱意は
他の友人の方がずっと強かったのだけれど、
ホレた弱みなのか。
ひととおり思案して
私は結局
彼女にメールした。
**
彼女はとても乗り気だった。
私は
彼女にそのアーティストを見せてあげられることが
とても嬉しくて、
というより、
感動を共有できるだろうことに、
胸が高鳴った。
セットリストを予想して、
彼女にCDRを作って渡した。
予想したことだけれど
彼女は私が期待するほど
盛り上がってはいなかった。
多忙を極めていた彼女は、
早くに退社できるかどうかに、
すっかりてんやわんやになっていた。
でも、そんなの分かりきっている。
彼女の嗜好が移り気なこと。
熱しやすく冷めやすいこと。
一年以上、毎日会っていたら、
そのくらい分かる。
彼女といられればいい。
私は私で楽しむから、
少しでも、
ほんのひとかけらでも、
彼女とその空間を共有できたら、
それだけで、私はいいのだ。
しかもクリスマス・イブに。
**
当日、
すべての曲が終わって、
アーティストがステージから去った。
彼女はどう思ったんだろ。
ステージに夢中で
まったく彼女のことを気にかけてなかったな。
「どうだった?」
ステージの余韻に浸りながら
ニヤニヤ顔で彼女の顔を覗いて
驚いた。
彼女は
静かに涙を流していた。