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2008年の

クリスマス・イブ、

東京は気味が悪いほど

寒くならなくて

ホワイトクリスマスには程遠かった。

もう

関東で

ホワイトクリスマスを迎えることは

死ぬまで二度とないかもしれない。

そう思うと

なんだか悲しくなった。




彼女に言ったら

「うそー」

なんて言っていたけれど

あながち嘘でもない。

関東ではどんどん

雪が降らなくなっている。








2008年のクリスマス・イブ、

私は、彼女と一緒に過ごした。



**

時を遡って10月半ば、

私のもっとも好きなアーティストの

ライブチケットが手に入った。

日にちは

12月23日 と 12月24日。


23日は

ファンの友人と。



24日は

‥‥‥

困った、そういえば平日だった。

相当早く退社しないと

間に合わない時刻。

余っているチケットは1枚。



その頃は彼と別れたばかりで

イブだからといって

誘う相手もいなくて

少し考えた。



そのアーティストは人気が高くて

「コンサートにつれてって」と

たくさんの友人から

リクエストを受けるほどだった。



友人たちの顔が頭に浮かんだ。

同時に彼女の顔が、浮かんだ。

彼女はミーハーで

ノリやすいけれど

移り気で。

前に彼女も

「コンサート行きたい」

なんて言っていたっけ。


その熱意は

他の友人の方がずっと強かったのだけれど、

ホレた弱みなのか。

ひととおり思案して

私は結局

彼女にメールした。





**


彼女はとても乗り気だった。

私は

彼女にそのアーティストを見せてあげられることが

とても嬉しくて、

というより、

感動を共有できるだろうことに、

胸が高鳴った。

セットリストを予想して、

彼女にCDRを作って渡した。

予想したことだけれど

彼女は私が期待するほど

盛り上がってはいなかった。

多忙を極めていた彼女は、

早くに退社できるかどうかに、

すっかりてんやわんやになっていた。

でも、そんなの分かりきっている。

彼女の嗜好が移り気なこと。

熱しやすく冷めやすいこと。

一年以上、毎日会っていたら、

そのくらい分かる。





彼女といられればいい。

私は私で楽しむから、

少しでも、

ほんのひとかけらでも、

彼女とその空間を共有できたら、

それだけで、私はいいのだ。

しかもクリスマス・イブに。





**

当日、

すべての曲が終わって、

アーティストがステージから去った。

彼女はどう思ったんだろ。

ステージに夢中で

まったく彼女のことを気にかけてなかったな。

「どうだった?」

ステージの余韻に浸りながら

ニヤニヤ顔で彼女の顔を覗いて

驚いた。










彼女は


静かに涙を流していた。




**