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びっくり。

彼女が、恋人と別れた。

価値観が違ったという。

なんとも言えなかった。




同じ会社の人だったので私はその人を知っていて、正直に言うと、悔しいけどこの人だったら彼女を託せるかもしれない、と思っていた。「託せる」なんて‥言えた立場じゃないんだけど。

優しいし、守ってくれると思った。




「別れた」という報告を受けて、何日か経ったあと、彼女と私は出かけた。東京から少し離れて、寺に訪れた。ぽつぽつと、彼女は別れた話を始めた。感覚のすれ違いがあったという。
聞けばその人はけっこう彼女にヒドイ態度をとっていた。プライドが高い上に非常にこどもクサイ。「託せる」なんて思った私がばかだったよちくしょう。



そんなやつもういいよ、と言った。彼女はもう落ち着いてるようだった。


おみくじをひいて結果をのぞきあったり、写真を撮ったりした。去年のボーナスで手に入れたカメラ。性能抜群。

カメラの液晶におさまる彼女の顔は、切なそうだった。



私は、彼女のそんな顔を、笑顔にさせることしかできない。






彼女の心の中心には、一生入り込むことができない。







☆☆