15

「大好きな曲だったから。」



ステージのアンコールで

最後の最後に歌った曲、

それを指して、彼女はつぶやいた。

表情豊かな彼女だけれど、

まさか泣くとは思わなかった。



私はなんだか

かける言葉が見つからなかった。



よく分からないけれど、

彼女の涙に

胸が

いっぱいになった。



好きだから。

好きな曲だから。

だから彼女は涙を流した。

そのことがなんだか無性に羨ましくもあり、

歯がゆくもあり、

そして


愛おしかった。







** ** **




言っておくが

私は、

彼女に触れたいと思ったことなどない。



ただ、少しでも一緒にいたい。

やりたいことはやらせてあげたい。

オーロラが見たいと言ったら

北の涯てまで連れていくし、

そこで彼女が「寒い」とぐずったら

必死で暖をとるし、

彼女が助手席で寝ても

どこまでも運転するし、

‥‥


欲しいものはあげたい。

高価なものでなければね。



どんなわがままも聞いてあげる。

何よりも、彼女の笑顔が見たい。

それだけである。




 ** ** **




彼女に涙を流させた、彼女の大好きな曲は、



10年以上前に

大ヒットして、

CDが何百万枚も売れた。

そのアーティストの

代名詞のような曲だった。



私はそれまで

売れまくった曲より

隠れた名曲ばかりを聴いていたから

売れた反動でその曲もそんなに好んでいなかったけれど



2008年のクリスマスイブの夜から



何度も何度も

聴いている。

 ** ** **