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長電話をしたその日から
彼女が出社する日まで
毎晩のように電話をした。
今日は仕事でこういうことがあっただとか
職場の人がこんな面白いことを言っただとか
本当に取るに足らない
ささいなこと。
そりゃ今までも
長電話したことはあったけれど
いずれも仕事の話で
彼女の悩みを私が聞く、
という、そんな感じだった。
でも、今回は少し違う。
必要に迫られた電話じゃないんだ。
どうでもいいことを
延々としゃべったりする。
私は彼女を笑わせることに夢中で、
家族を起こさないように配慮しながら
でも楽しそうな彼女の
例の、含んだ笑い声は
夜だからか
いつも以上に甘く
そして色っぽかった。
それは
いつまでも私の心に響いた。
この
夜中の電話を境に
私はいよいよ
彼女を特別視するようになってしまった。